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みつかるがわから、見つける側に【墨田 青蓮】

みよる≒アズリオンデ 2026/06/28 05:12
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もうそれが何歳の時だったか、ちゃんとは覚えてない。

たぶん、私が最初にミサさんに見つけてもらったのは商店街だった。
昔から走るのは好きだった。でも今みたいに「どこまで」とか「何分」とか決めて走るんじゃなくて、ただ面白そうなものを探して、知らない道をふらふらしてた。
知らない場所って、ちょっとわくわくする。迷ったらどうしようって思うのも、最初は楽しかった。

でも、本当にどこにいるかわからなくなった時、急にすごく怖くなった。
見たことない看板。知らない顔。知らない店。
さっきまでいた場所が、どこにもなかった。
このまま帰れないかもって思った。
泣きそうだったけど、泣いたらもっとわかんなくなりそうで、とにかく周りを見ながら歩いた。

その時、ミサさんが声をかけてくれた。
ほんとはもう商店街の入口まで戻ってて、たまたま見つけてくれただけだったのかもしれない。でもあの時の私には、それだけで十分だった。
あ、見えてたんだ、って思った。
ちゃんとここにいていいんだって思えた。

あとでその人が大城美沙さんって警察の人だって知った。
それから、制服を着たミサさんを見かけるたび、なんとなくまた走って追いかけた。
ミサさんはいつもまっすぐ前を見て、自転車ですごく速く走ってた。
その背中は、速さよりもっと遠くに行っちゃうみたいに見えた。
でもある日、私服のミサさんを見かけた。
いろんな人と話しながら歩いてたのに、ふと私を見つけて、この前の迷子のことを気にして声をかけてくれた。
制服がなくても見つけるんだ、って思った。
あの時の「だれかみつけて」は、その時ちょっと変わった。
次は、私が見つけるほうになりたいって思った。

でも今の私は、まだぜんぜん足りない。
せめてミサさんと同じ制服を着られたら、あの人と同じ場所から、困ってる誰かを探せるかもしれない。

まだ制服も着られない私にできるのは、宮本先生に話を聞くことくらいだ。
だから今日も、授業が終わるのを待って声をかける。

──今日こそ答えてくれるかな。

「ねえ先生、シマケイって島の人? 国の人?」

みよる≒アズリオンデ 2026/06/28 09:40
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※画像はあくまでイメージ図です。授業に来ている宮本が「制服で授業を行っている」ことを示す訳ではありませんが、その方が分かりやすいかと表現しています。

みよる≒アズリオンデ 2026/07/05 06:35
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【墨田 青連 シナリオ01終了後】

──ゴゥッ!
舗装のされてない土が蹴り上がり、私に掛かる…前に、勢いを上げた身体が斜めのまま湿気を切り裂き飛び出していた。
そんなイメージで走り出す。下を向けた顔が徐々に前を、顎はあげないように意識しながら少しずつ身体を起こす。砂利に滑らないように慎重に、だけど勢いは止めないよう最小限で、身体の真下に脚を、下ろす! 気がつけば、もうゴールだ。

朝のトレーニングは、飽きないように少しずつ変えていってるけど、やっぱり「走っている時に景色が流れていく」瞬間って気持ちがいい。
今朝は商店街を避けて、神社方面に駆けている。予定になかったコースだけど、土を踏みしめる音がいい感じ。いけない、そろそろウォーキングに切り替えないと。
最近、商店街の方がなんだか落ち着かない。大人もまだちゃんと分かってなくて「用事がないときは近づかないこと」と言ってた。学習センター、商店街のすぐ側なんだけど。

島にひとつだけある神社の鳥居に向かって、ランとウォークを交互に行う。学習センターから神社は3キロくらい…私くらいの歳の子は、「往復で走り続けるのは長すぎる」距離、なんだそうだ。骨が完全に出来切ってない年齢で、長距離を走り続けるより、短い距離を全力で走った方がいいんだって。…こういう事はすぐ教えてくれるんだよなぁ。
警察学校に入ると結構走らされるって聞いて、長い距離を走れるように訓練しようとしたら、宮本先生に言われたことだ。『様々な身体の動きが出来るように、飽きないように色々やった方がいい』って、子供メニューを調べて教えてくれた。なんだか子供扱いで、しゃくに障るけど実際身体は子供だから仕方ない。

今の渡来神社の周りはすっかり草を刈りこまれ、見た目がスッキリしている…相変わらず社殿も鳥居もボロいままなんだけど。私は外の神社を見た事がないから、「神社ってこんなもの」くらいの感覚だ。草を刈られた程度ではイメージは変わらない。──そういえば、あの騒動の時はVRで『武道体験』を受けにホールにいたんだったっけ。警察官は柔道とか剣道してる人が多いし、学校でもするから、やってみたかったんだけど、何故か始まったのは『刀礼法』から始まる居合術だったんだよね…途中で出てきた『神道無念流の血振るい』がなんかカッコよかった…。まぁこれも宮本先生の『色々やった』に入るかなって。

とりあえず最後までやってみたら、その裏側で草刈り機が脱走してたみたい。何人か学習センターの生徒(ひとりは私より年下)の子らが関わってたって聞いている。なんか、最終的には「誰かの忘れ物」だって話なんだけど、忘れ物が見つかってよかったね、で終わらせて良かったのかな。
あ、そのひとりの歳下の子、修理屋から「磁気センサー」の話を聞いて、鳥居の釘を見に行ったらしいけど、釘と磁気の話がどうして草刈り機の目的地に繋がるのか、イマイチよく分からない。AIに「鉄ってなんで磁石とくっつくの?」って尋ねたら…磁場と磁束とか、電子のスピン方向とか自由電子がどうとかで「こんなことわかってないと理解できないから、今の段階では電子が上手いことやるで問題ないよ」って慰められた。なんだかムカつく上に、「まさか、あの子そこまで理解してるの…?」と、たまに見かけるあの少年の可能性に驚いたものだ。

島の気温が徐々に上がって行く前に、私の身体があったまっていく。よし、しばらく集中!

みよる≒アズリオンデ 2026/07/05 07:06
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あれ、長ぇ…?
鉄と磁石の話は実話です。シナリオ読んで「霧島くん賢い…」と思ってたので、実話と絡めて書いてます。
あと居合と神道無念流は完全に私の趣味。本当は青蓮が01に参加しなかった理由と、毎朝走ってるよって話を描きたかっただけなのに…

みよる≒アズリオンデ 2026/07/12 05:55
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家のドアを開けた途端、

「おかえり」

と声をかけられた。さすがに驚いた私は、いつもなら見えないその姿を、つま先からゆっくりと上に向かって確認した。母…いや、気取って言うのやめよ、かぁさんだ。

「…起きてたの」
「青蓮、開かないのがめんどくさいからって、鍵閉めないでいくのやめなさい」

どうやら、あまり眠れなかったこと自体を気づかれたわけではないみたい。ドアの開け閉めで目が覚めたんだな。
(エントランスだけでもなかなか開かないんだもん)
流石に口に出してそんな言い訳はしない。

「どっち?」
「神社の方」
「そっちじゃなくて、ご飯よ」
「ハム、ベーコンの気分じゃない」
「ハイハイ」

自分は「はいは1回!」って怒ってきたくせに、この人の口癖は「ハイハイ」だった。こういうのにいちいちイライラするのが、反抗期なんだろうか?

「神社は今スッキリしてるんでしょ?」
「さすがに中まで見てないけど、見た目には雑草無くなってる」
「いいなぁ、うちも周り刈ってってくれないかな?」
「相変わらず鳥居はボロだけどね」
「あなたがうちの草刈り機になってもいいのよ?」
「ひとりでするのは嫌」

目玉焼きとトーストが出来上がるのを待つ間、そんなとりとめなく話題が続く。私は話をするのは好きだ。ただ、自分から話題を振るには、今は少し気だるい。こういう時は、話題をコロコロ振ってくるかぁさんにまかせる。

「使わせてもらってるんだから、お参りくらいはしてるの?」
「鳥居の外から手は合わせてるよ」
「合わせるのはお寺よ」
「知ってるよ、さすがに」

とかしたプロテインを再びかき混ぜて、飲み始めたあたりで、焼けたトーストが出てきた。何も考えず、そのままかじる。アツイ。

「あ、そうそう、最近色々あって噂が多くてさ、統括だっけ、若くてイケメンの新人が、なんか丁寧に仕事してくれるらしいのよ」
「トーカツなんかに用事あるの?」
「無くてもいいじゃない、あそこ感じ悪い職員が多いから、そういう真面目そうな感じいい人がいたら話題にもなるの」
「ふーん、色々って他には?」
「ライトブルーのキャップ被った子が─「ライトブルーとか若者ぶった言い方やめなよ、水色でしょ」─ハイハイ割り込まないの、修理屋とかナンジィで聞き込みして首傾げてたとか」

げ、聞き込みバレてる。まぁ他にもいろんな人がしてたみたいだし、噂にも上がるのか。

「医療センターの売店で棚に南京錠が着いたって話もあったな」
「何それ?」
「いやーそれが割とゴツいヤツらしくてね、まぁ看護師辺りには『ビタミン剤や消毒液盗まれておいて、今更ですけど』なんて言ってたらしいわ?」
「──ん?」

今、変なこと言わなかった?

「……医療センターで盗まれたのは、絆創膏じゃなかったの?」
「えー!? しらないのー!?」

かぁさんの大きな声が私に降りかかる。

「絆創膏に、消毒液、ビタミン剤、割と早い段階で噂になってたわよ?」
「ちょっと! それいつの話!?」
「そんなにハッキリわかったのは最近じゃない?」
「…あ、えー…?」

もう少しで繋がるかと思われた点と点が、新たな点を見つけて頭が更にこんがらがってしまった。

「なに? 聞き込みに回ってるって話があったから、とっくに聞いてるんだと思ってた」
「知らないよ…仕方ないじゃん、私じゃひとりで医療センター行けないんだし」
「言えば連れてったげたわよ」
「診察受ける訳でもないのに、迷惑だよ。私の身体悪いとこない」
「ハイハイ。アンタ、妙なところでいっつも頭硬いのよねぇー」

自覚はあるので、睨みはするが文句は出ない。
……知らなかった。
それだけなのに、頭の中で何かが少しずつ形を変えていく。
でも、それが何なのかは、まだ自分でもよく分からなかった。

みよる≒アズリオンデ 2026/07/12 06:00
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ここまで書かないと青蓮に「医療センターで消毒液、ビタミン剤もあるよ」って教えてあげられない私…

みよる≒アズリオンデ 2026/07/18 22:54
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コンビニ3号店を出た私は、神社を見すえ──ふと、朝日が昇り始める東側をさけてしまった。向けた目線は当然西側へ。それは別に意識があったわけじゃない。そう、特に何も無いのに、何かがズシリ、と来る。

鳥居近くまで来たから、走るのを止めて息を整える。鳥居の向こう側の境内は、一応神様のお家。そんなところでトレーニングを続けるのも申しわけないから、と鳥居に向かって手を叩きながら、心の中で「イイワケ」する。
なんなんだろ、「イイワケ」って…。まるで「ワルイワケ」があるみたい。

走ったり跳んだり、色んな動きをして身体を動かすと、鳥居に背中を向ける時、先程まで意識していなかった風景…嘘だ、ずっとしてた、『D区』側が目に入る。瞬間的に目を逸らし、やっぱりもう一度、今度こそ顔を向けた。今日はもう、集中出来ないや。

私はD区内にはまだちゃんと入ったことはない。もちろん同じ島の中だ。どんな所かはだいたい知ってるし、用事がないんだから行く必要も無い。特別変なところだとも、嫌なところとも思ってない。
でもそれ以上にあの区画に入ると、「また帰れなくなる」んじゃないか、そう思う自分がいる。あの時の迷子の記憶が、新しい場所へ進むことを拒んでいるのかもしれない。次の迷子でミサさんは現れない。その時、今の夢まで変わってしまったらと思うと、どうしても足が向かない。

私は夢のために、島を、踏み出ないといけないはずなのに。島の中ですら、出られない。

ミサさんは、宮本先生は、たぶん行く。

私は、まだ行けない。

あの制服の「濃い青」は、その境を分ける、私にはまだ着れない色だ。

みよる≒アズリオンデ 2026/08/03 22:53
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沖原先生は、「先に決めておきなさい」と言った。今、私が探している人を見つけても、そのあとどうするのか、私は決めていなかった。
そう気づいた時、一番に浮かんだのはミサさんだった。

私はずっと、「ミサさんみたいになりたい」と思ってきた。でも、それは制服を着た警察官じゃない。
迷子だった私を見つけてくれた、一人の大人。だから私は、ずっとその背中を追いかけてきた。

だけど。

私は「見つけたい」とばかり思っていた。

見つけたあと、どうするのか。
その人はどこで暮らすのか。
誰が受け止めるのか。

私は、一度も決めていなかった。
手帳を広げたまま布団に突っ伏す。
ふと視線の先に、部屋の奥へ隠すように置いてある紺色が見えた。

あれも、買う前に決めていれば、今ここにはなかったのかもしれない。
それでも捨てられない。
あの頃から私は、その紺色が似合う、濃い青の制服を着た人に憧れていたから。

私が今探す『人』が今どこにいるのかは分からない。何が必要なのかも分からない。

でも、道具を大切に使って。
申し訳なさそうに暮らして。
無いことにされたまま生きる。

そんな毎日なら。きっと、私が迷子だった時より、ずっと苦しい。

このまま島を出ていったら。
誰にも気づかれず。誰にも「いた」と言われないまま終わってしまう。

……。
やだな、それ。

みよる≒アズリオンデ 2026/08/12 09:14
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※オマケ・キャラの解釈違いがあるかもしれません※

大体二年くらい前、新しい「シマケイの警察官」が本土から配属されたっていう話は、当時既に学習センターに通っていた私の耳にも届いていた。狭い島の中だ、業務を始めれば嫌でも「新参の若者」は目に付く。

もうその頃にはミサさんの部下になることを決めていた私は、何となく「先を越された」と、今思うと随分勝手な感情でその事実を噛み締めていた。「ミ・ヤ・モ・ト」という単語を聴く度にずっとイライラし、当時から探偵の真似事で島警察署を出入りしようとしていた(本当は私もしたいのに我慢していたのだ)真宵にすら、「マ・ヨ・イ」が何となく音が「ミ・ヤ・モ・ト」に似ているせいで、噛み付いてしまいそうになっていた。
今私が呼んでいる「まよい探偵さん」は、誰が呼び始めたかは知らないが当時は「その名を聞かさないでよ!」と、割と本気で嫌っていたあだ名だったりする。

そんな「ミヤモト」がなにかのきっかけがあったのか、学習センターの「道徳と体育」と言う授業に来ることになった。今より少し髪の毛が短くて、そして今とは違い「まだ完全には抜け切ってない訛り」──後から聞いたら「阿波弁」なんだそう──で、挨拶をする「ミヤモト」は、自分の夢を横取りしたイヤなやつ、ではなく、自分が想像する「警察官」そのもの、だった。

この人も、ミサさんと同じ、私がなりたいモノなんだ。

そう思った時、目の前の「ミヤモト」は、私の中で『宮本先生』に変わった。
授業終わりの一番最初の質問は今でも覚えている。「なんで私より先にシマケイになったの!?」だ。我ながら随分と自分勝手な意見。宮本先生は「あー、んー」と初めての授業後なのに想定外の質問で困っていた。これ以降数回シマケイの質問を幾つかして、全てはぐらかされた。だから最後にしたのがこれだ。

「先生と同じ所で警察になれば、シマケイになれる?」

初めて答えが返ってきた。

「……徳島県警は、ヤメとき?」

みよる≒アズリオンデ 2026/09/07 04:21
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最近の青蓮はこんな感じにシュシュを手につけたり、髪を結ぶ事が多くなっています。

みよる≒アズリオンデ 2026/09/15 04:48
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台風が過ぎ去った後は、いつも空気が美味しい気がする。だから、その味を吸い込みながら走りたくて、いつもより早起きした。空は黒に近い紫色で、少し灰色まじりだ。

今はもう9月に入って、日の出の時間も真夏ほど早くない。真昼はまだ随分暑くて、とてもトレーニングなんてする気になれないけど、台風みたいな雨の後の朝は、いつもの格好だと少し寒いくらいかも。今日はどこに向かって走ろうか。

少し考えたフリをして、でも実は既に決まっている。本当に悩んだのは昨日の晩。もう外に出れば、気持ちはスッと決まった。今日は風を浴びたい。

いつもは神社の鳥居の前で残りのトレーニングをするんだけど。少し足を伸ばして岬まで行ってみようかな?

みよる≒アズリオンデ 2026/09/16 07:12
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神社の方から帰ってくる頃には、空は紫からピンク、橙、そして青に。そういえば、朝の空の色は赤じゃなくて桃色、だよね? 赤は夕方のイメージ。
そんな悠長な「空談義」が出来たのは、集合住宅の敷地に入るまでだった。

「あっちゃー……」

思わず手で顔を覆ってしまった。
今年はウチの周りが『当たり』だ。なんで出ていく時に気づかなかったのか──走る事しか頭になかったから──暗くて地面の事など気にせず走っていたが、既にご近所さんは対応に当たっているみたいだ。
ご近所さんたちには、小さい頃からお世話になっている。かぁさんが仕事で、どうしても本土に戻らないといけない時、何日か泊めさせて貰ったこともあった。困っているなら、助けないと。
まず自宅の無事を確認して、かぁさんに一報。それだけ済ませると、慌てて手伝いに行く。

泥や濡れた床の掃除なんかを手伝って、片付けが一段落する頃には、体のあちこちが重くなっていた。あんなにトレーニングしてきてるのに、こういう時には役立たないのかー、と少しショックだ。

それからも買い出しに走ったり、気になったことを聞いて回ったり。そうして目の前のことを一つずつやっているうちに、気がつけば一日が過ぎていた。

疲れた体を引きずって、自宅へ。
玄関で靴を脱ぐときに、ぐっちょりとした感触が剥がれていく。そういえば、昨日の晩に悩んだ理由は「靴が汚れちゃいそうだな」だったんだっけ。もうそんなレベルでは無いけど。
このままだと家も汚してしまう。でも玄関で服を脱ぐのもなんだかなぁ、と少し悩み出したところで、家の奥から私の母、かぁさんが声をかけてきた。

「随分熱心に手伝ってたみたいだけど、アンタ今日学習センターにいかなくてよかったの?」

あっ!?

「……今日、行ってない。学習センター……」

みよる≒アズリオンデ 2026/09/16 07:15
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青蓮を動かし始めて、今回「一度も学習センターに顔を出さない青蓮」に初めて気づいたので、後付けで理由を作っています。プロフィール作った時から思ってたけど、青蓮は結構視野が狭いです。

みよる≒アズリオンデ 2026/09/21 11:23
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朝ごはんを食べながら、指先や足、腰等に鈍ーい痛み。食欲はあるのに、それを口まで持っていく気力が足りない。今日はとても朝から走れる状態では無いや。トレーニングをやって時々感じているから、わかる。これはまごうことなき『筋肉痛』だ。

ご近所さんの片付けに参加しての次の日、痛みと気だるさの原因を突き止めた私は、割と真剣に悩んでいた。それは、

───私、トレーニング不足、なのかもしれない───

宮本先生から「身体の出来上がっていない時期の過度なトレーニングは、むしろ良くない」と、提案されたトレーニングメニューをこなしながら、心地よい疲労感と適度な刺激により自分を「普通の子より身体が鍛えられている」と思い込んでいた。もしかしたら、このままだと大人の身体になった時に、後悔するかもしれない。
──今からでも先生と相談して、もう少し強度を上げたトレーニングを──

「ハイハイなに、アンタ片付けで疲れちゃったの? 大して役立たなかったのに」

……考えないようにしていたのに、この人は。

そう、慌てて飛び込んで手伝いをしに行った割に、そこまでちゃんと「人手」として換算されていなかったのだ。ある意味、子供に危ないことをさせない、真っ当な大人の対応だったのだが。

「アンタ聞いたよ、ちょっと拭いた雑巾どんどん捨てようとしたんだって? その後『雑巾買い足さなきゃっ!』て慌ててナンジィに行こうとするもんだから、『雑巾は洗って使うんだよ』って、笑ってたわよご近所さんたち。だいたいナンジィは開店前だし」

「…結局足りないから、ちゃんと買いに行ったもん」

「雑巾は濡らす用と乾拭き用がいるんだから、そりゃそうだよ」

指先が痛い理由もそれだ。雑巾が濡れたら、あんなに重いなんて、知らなかった。そう思って拭き始めたら、「青蓮ちゃん、雑巾は使う前に絞るの!」って慌てて止められたんだ。「今の子って雑巾絞ったことないってホントねぇ」と言いながら、絞り方を教わった。「もっと絞って!」「これ以上!?」ってやり取りの後、ご近所さんが私が絞った雑巾を持って、絞り出した水の量を見て、唖然としてしまったのは誰もが見ていた。
しかも、それを使ったあと汚れた布を、またバケツに持って行って汚れを洗うのだ。なぜ新しいのにしないのか聞いたところ、当然のように「雑巾ってそういうもの」という答えだった。最終的に、「足りない雑巾買ってきて!」と買い出しに行かされ、ついでに作業用手袋も買ってくるよう頼まれた。戻ってきてから任されたのは、物をどかしたり運んだりする方だった。
……今思えば、あれは一旦私を掃除から遠ざけるための買い出しだったんじゃないだろうか。
優しいから言われなかったが、要するに「掃除要員としては戦力外」だ。

「まぁ仕方ないでしょ、アンタんとこは教室の掃除が違うから」

「学習センターだって掃除の時間あるよ、ちゃんと画面も机も綺麗にするよ」

「そういうんじゃないの、『本土の小学生』ってのは必ず『雑巾係』ってのがある…いや、もしかしたら今はないとこあるかも?」

「小学生ってあれでしょ、6歳から12歳まで通うとこ。なんでそこに雑巾が関係あるの?」

「するの、床掃除」

「なんで? どうやって?」

「給食の後に、机運んで、昼休憩の後バケツに水入れる係の人と、ホウキ係さんが動き出したら、掃除始め」

「そんなことしたら、

──パソコン、壊れちゃうじゃん」

かぁさんが、しばらく黙ったあと、小声でため息混じりに言った。「コレだから第1世代は」

「……アンタの学習センターとは違うの。本土の教室には、パソコンが並んでる方が珍しいよ」

「じゃあ、何が並んでるの?」

「机」

「机にもパソコンあるでしょ?」

「ないの」

「……何するの?」

「勉強だよ!」

なんでも、濡れ雑巾を使って床掃除中に「雑巾がけ競走」をするのは、小学生あるあるだそうだ。なんだそれ?

朝食を食べ終えて、まだ少し痛む指を握ったり開いたりする。
走るための足。
腕立てをするための腕。
バーピーだって、ちゃんとできる。
でも、雑巾一枚まともに絞れなかった。

「……身体鍛えるって、なんなんだろ」

「ハイハイ、だからアンタはまだ子供なんだって」

「それ関係ある?」

「あるある」

絶対適当に言ってる。
はぁ、とりあえず今日は、朝トレは休もう。

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