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Turn 6

シナリオ02_黒板が白くなった朝

配信済

締切: 2026/08/09(Sun)23:00

Current Situation

出航の朝、みなみ丸のタラップを、検査チームの三人が上っていった。
矢島宗則は最後にもう一度だけ島を振り返り、何かを数えるような目で桟橋を眺めてから、船内に消えた。彼の鞄には一週間分の数字が詰まっている。その数字のどこにも、葉山千尋の名前はない。

乗船名簿にも、名前はなかった。載る手続きそのものを、彼女は最後まで踏まなかった。前の晩、南から港へ、瞬く街灯の下を歩いてきた彼女を迎えたのは、統括局でも、検査チームでもなかった。
桟橋の荷役だった。誰かが理由を聞かず、誰かが金を受け取らず、誰かが荷物の流れの中に、彼女の居場所を作った。それだけだった。

出航の朝、荷役の列に紛れて、彼女は船に乗った。灰色の作業着ではなかった。荷物は小さな一つだけだった。四年分の暮らしにしては、軽すぎる。だが、その足取りは軽い人間の足取りではなかった。

汽笛が鳴った。船がゆっくりと岸壁を離れる。

船倉に近い暗がりから、彼女は島に向かって、深く一度、頭を下げた。
誰に向けてかは分からない。直してきた配管に向けてかもしれないし、芋を二つ多めに置いた誰かに向けてかもしれない。それを見た者は、誰もいなかった。それでも、頭を下げたことに変わりはなかった。

船が水平線に消えるまで、桟橋には何人かが残っていた。
見送りと呼ぶには距離があり、無関係と呼ぶには長く立ちすぎていた。

その三日後、黒板に数字が戻った。

GM より 共通リプライ

検査チームが帰って三日後の朝に数字が戻ってから、島は驚くほど速く、元の形に落ち着いていった。

両替所の窓口には灯りがあり、ノックをすれば不機嫌な声が返ってくる。D区の現物相場は一週間かけて落ち着き、芋も塩も卵も、先月と同じくらいの値段で手に入るようになった。無人コンビニ2号店が落ちるのは深夜二時から四時。ナンジィの棚は入港翌日にちゃんと埋まり、翌々日にはいつも通り半分空になった。

そして、物がなくならなくなった。

工具も、缶詰も、絆創膏も、置いた場所にそのまま残るようになった。自生棟の「持っていっていい棚」は普通に減り、普通に補充される。誰かが両手で持てるだけ持っていく、あの静かな減り方は、もうしない。

不思議なのは、忘れられていく速さの方だった。

一月前、島はその話しかしていなかった。廃工区の生活音。南部林の幽霊。玄人の手口。記録にない人。あれだけ噂を回していた同じ口が、今週はもう別の話をしている。次のみなみ丸で本土から届く注文の話、秋祭りの当番の話、誰かの家の給湯器が壊れた話。幽霊の名前を覚えている者もいるにはいるが、わざわざ口に出す者はいない。話題というのは、そういうふうにできている。

覚えていることと、話し続けることは、別のことだ。この島の人間は、そのあたりの分別が上手い。上手すぎる、と言う者もいるかもしれない。

南部林の縁では、露出した配管が今日も水を通している。継ぎ目には応急処置の跡があり、その周りの草だけが、なぜか短く払われている。廃工区の点検口の蓋は、閉まったままだ。誰も開けない。開ける理由がなくなったからだ。

点検小屋跡は、しばらく子どもたちの探検先になった。段ボールの畳まれ方がきれいだった、正の字みたいな印があった、ヘッドランプが釘に掛かっていた——見てきた者が口々に言うので、行っていない者まで見たような気になった。石で押さえられていた紙のことも、少しだけ話題になった。品名と金額が並んでいて、最後の行に太い字で一文字だけ書き足してあったという。誰が書いたのかは分からない。分からないまま、その話も一週間で飽きられた。

沖田の店には工具が戻り、ナンジィの棚は普通に埋まり、医療センターの南京錠は外された。被害届は、結局どこからも出なかった。届出のない盗難は捜査できない。だから事件は、最初から最後まで、事件になっていない。シマケイの引き出しには、行き場のない布のタグが一枚残っている。

商店街の黒板には、数字が書いてある。少しだけ円高に振れた、いつものレート。五週間ほど、その板が白かったことを、そのうち誰も思い出さなくなるだろう。

それらを誰が保ったのか、この島はどこにも記録していない。記録する仕組みがないのだから、当然だ。

港では、次のみなみ丸を待つ荷が集まり始めている。入港はまた一週間後。荷役の人手を集めるのは、いつも通り番の仕事だ。いつも通りの週が、また始まろうとしていた。

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