Turn 2
シナリオ02_黒板が白くなった朝
締切: 2026/07/12(Sun)10:00
Current Situation
月が変わり、BIの給付日「一日(ついたち)」が来た。例年なら、この日はトカポの流通量が増えて希少性が下がり、D区の現物相場が一時的に上がる——それでも数日すれば落ち着くのが常だった。今年は違う。黒板は白いままだ。両替という逃げ場を失ったまま給付日を迎えたことで、相場は上がったきり下がる気配がない。
みなみ丸で本土に出る予定だった人間が、何人も乗船を見送った——円がなければ、本土で一晩も過ごせないからだ。港では、タラップに上がる足音がいつもより少ない朝が続いている。
自生棟の「持っていっていい棚」が、夜明けに少しずつ減っている。日持ちのする物だけが、丁寧に選ばれて消えていく。同じ頃、南部林の縁で夜に小さな灯りを見た、という話も流れ始めた。懐中電灯より弱く、蝋燭より安定した灯りだったという。
ナカ商店街では、沖田の店先に貼られた被害品リストが今も話の種になっている。
「玄人の仕業」という評判は、盗難というより、どこか生活の匂いを帯びたものとして語られ始めていた。両替所の窓口は相変わらず閉じたままだが、裏口から出前を取っているらしいという話が広まり、少なくとも中の人間は無事らしい、という安堵だけが商店街を覆っている。夜、すりガラスの奥にほんの一瞬灯りが揺れるのを見た者もいるという。
D区でも落ち着かない空気が続いている。番の世話人たちが夜な夜な連れ立って歩き回る姿が相変わらず目撃されており、「神谷さんがピリついてる」という声が露天のあいだで低く交わされている。理由を尋ねても、皆一様に言葉を濁すばかりだ。
一方、統括局の窓口では、ちょっとした噂が立っていた。ある住民の年金の受給方法を巡り、古い記録の食い違いを若手職員の橋本が見つけて正した、という話だ。前任者が規則を曲げて運用していたものを、律儀に調べ直して正したのだという。「あの人は、細かいところまでちゃんと見てくれる」——そんな評判が、行政の記録に何か引っかかりを覚えている住民たちの間で、静かに広まりつつある。