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Turn 3

シナリオ03_錆びた金属と、南のざわめき

配信済

締切: 2026/10/04(Sun)23:00

Current Situation

崩落箇所の話は、もう島の誰もが知るところになっていた。「扉みたいな形をしてるらしい」という噂は、今では「本当にらしい」という実感に変わっている。学習センターの端末室では、誰が描いたのか分からない「扉の想像図」が今もまだ回っていて、日に日に細部だけが盛られていく。

行政の話は、相変わらずだった。統括局に聞けば「うちの管轄じゃない」、議会に聞けば「所管がはっきりしない」――その堂々巡りは、もう島の笑い話として定着しつつある。「役所ってのはそういうもんさ」と、半分呆れ、半分納得している者がほとんどだった。ただ、真顔でその先まで食い下がった者が何人かいたことは、窓口の顔ぶれの疲れ具合からも窺えた。

今週に入って、崩落箇所の斜面がまた少し崩れたという話も広まった。大きな怪我人は出なかったが、居合わせた者にとっては肝を冷やす出来事だったらしい。あの一帯の地面がまだ落ち着いていないことは、これで誰の目にもはっきりした。

南部林の獣道を知り尽くしているはずのシンは、今週もとうとう現場に姿を見せなかった。理由を聞いても、答えはやはり返ってこない。北浦では、年の半分をこの島で過ごすリン・ジェイコブスが、相変わらずオジイと並んで竿を垂れている。

これまでに現地で拾い集められたものの中には、製造所の印らしきものが刻まれた金属の切れ端がいくつか混ざっているという。何の手がかりになるのか、今のところ誰にも分からない。「なんでも直す」の沖田なら、古い機械のことには詳しいという話も聞く。学習センターの奥には、古い規格をまとめた資料が眠っているらしい、という噂もある。

そして、本土から確認の人間が来るという話が、いよいよ具体的な日程を帯び始めていた。来れば、しばらくは現場に立ち入れなくなる見込みだという。つまり、あの場所に自由に入れるのは、今週が最後になるかもしれない。

管轄の件は、相変わらず誰も答えを持っていない。

GM より 共通リプライ

崩落箇所へ通じる獣道は、この一週間でめっきり歩きやすくなった。誰かが整備したわけではない。人が行き、人が戻り、また別の人が行く。その繰り返しで、藪の中に踏み跡が一本の道のように通ってしまったのである。長靴の泥の乾き具合を見れば何度目の来訪か分かる、などと冗談を飛ばす者まで現れ、現場から戻った人間同士がポーシーの上で「今日は誰がいた」「誰とすれ違った」と報告し合う光景も、すっかり日常になっていた。もっとも、これだけ人が通っても、扉のすぐ近くまで寄って長く眺めたと言える者は多くない。足場の悪い斜面を前に、たいていの人は少し離れたところから見物して帰ってくる。

学習センターでは「扉の想像図」がさらに枚数を増やしていた。観音開きの派手なもの、金庫のような丸いハンドルがついたもの、なぜか隅にタコが描き込まれたものまであり、誰の絵がいちばん「それっぽい」かを競う、ささやかな品評会の様相を呈している。AI教育の課題の合間にこっそり描いていた子が職員に見つかり、「せめて縮尺を書きなさい」と言われた、という話も出回った。一方、ポーシーの一角では、何かを机いっぱいに広げて額を寄せ合う一団が見られた。通りがかった者が「何の相談?」と覗き込もうとすると、「まだ途中だから」とやんわり押し返されていた。何を広げていたのかは、その場にいた者にしか分からない。

現場へ通う人の顔ぶれも、日ごとに少しずつ違っていた。出勤前に寄る者、昼休みに自転車で往復する者、弁当を提げて半日腰を据える者。帰りがけに誰かと鉢合わせると、「何か見つかった?」「いや、泥だけ」という挨拶が自然に交わされ、泥のついた靴が玄関に並ぶ家が増えた。ある家では、母親が玄関に新聞紙を敷き詰めて、端に「南用」と書き添えたという。

ナカ商店街のスーパーナンジィの店先では、午後になると決まって世間話が始まる。今週の話題はもちろん南のことで、先週あたりから、「オジイさんたちの世代は、あの辺りに長くいると耳が変になると言っていたらしい」という話が、人から人へ渡るうちに「オジイさんたちが自分で体験した話」のように丸められて聞こえてくるようになっていた。レジ横の丸椅子に座った老夫婦は、それを聞くたびに首を振った。

「いやいや、そこまでは言ってないよ。オジイさんたちも、子どもの頃に年寄りから言われたんだとさ。自分で行って何かあった、って話は、聞いたことがない」
「私らは、その又聞きの又聞きだからねえ。行くなと言われたのは覚えてるけど、どうして行くなのかは、誰にも聞けなかった」

夫が「そういうもんだ」と付け足し、レジを打った。買い物に来た客の一人が「じゃあ結局、誰も知らないのか」と笑うと、老夫婦も「そういうこと」と笑って釣り銭を渡した。伝わっているのは「行くな」という言葉だけで、その先は誰の手にも渡されていない。そのことを、店先の誰もが少し不思議がりながら、深刻には受け止めていなかった。ちなみにこの週、ナンジィでは長靴用の泥落としブラシと虫除けがよく売れ、握り飯の弁当は昼前に棚から消えた。南に行く人間が増えると、腹の減る人間も増える。

崩落箇所に長く居ると耳鳴りや頭痛を覚える、という話は今週も途切れなかった。ただ、聞こえてくる数が増えるにつれて、何も感じなかった人のほうがずっと多いこともはっきりしてきた。同じ場所に同じくらい居ても、ふらついて早々に引き上げる人もいれば、持参した昼食をきれいに平らげて帰る人もいる。誰が出やすいのか、何をしたら出るのかを言える者はおらず、現場を離れれば治まるという点だけが、皆の話の一致するところだった。原因は誰にも分からないまま、「分からないものは分からない」という島の流儀で、話は流れていった。

シンは今週も現場に近づかなかった。神谷のコンテナの近くで、いつもと変わらない様子で過ごしていたという。北浦の浜では、オジイとリンが相変わらず並んで竿を出していた。道行く人があれこれ尋ねても、リンは竿先から目を離さずに「魚は待ってくれないからね」と笑って流し、オジイは返事の代わりに糸を巻き直す。二人の足元のバケツには、今週もそれなりの数の魚が泳いでいた。

週も半ばを過ぎた頃、橋本から連絡が回ってきた。来週、本土から確認の人が来る。日程はもう動かせないらしい。統括局の窓口で今週何度目かの説明をしていた橋本は、この連絡だけは珍しく迷わず口にして、続けて「中身は、私も詳しくは聞いてないんですけど」と付け足した。聞いた者は一様に顔を見合わせ、それからポーシーの画面を覗き込んで、日付を指で数えた。

つまり、あそこには、もう入れなくなる。

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