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Turn 5

シナリオ03_錆びた金属と、南のざわめき

配信済

締切: 2026/10/18(Sun)10:00

Current Situation

二つ目の台風が近づいている。島の動きが止まり、腰を据えて調べる時間ができた。

議会事務局の書庫には、まだ開けていない箱がたくさん残っている。中村沙織が「続き、やりましょう」と言っている。木箱は、まだ港の倉庫にある。

専門家チームは撤収の準備を始めているようだ。焦った様子は、まったくない。

GM より 共通リプライ

二つ目の台風は、予報より半日早く島に近づいた。週の半ばには空の色が変わり、TOKAMI-FMが急に喋り始めた。機械音声が台風の進路と、みなみ丸の欠航を淡々と読み上げる。台風が来ると急にラジオが喋り出す、と島の子どもたちが少し怖がるあの声が、この週は朝から晩まで続いた。

スーパー「ナンジィ」の前には、開店前から列ができた。電池と水と、なぜか特定のシャンプーが、昼までに売り切れた。並んでいるのは顔見知りばかりで、話題は台風の進路と、今年の「当たり」はどこか、だった。老夫婦はいつもどおりレジに立ち、端末の調子が悪くなると、黙って記帳のノートを差し出した。

港では、専門家チームが仮設テントを畳み始めていた。機材ケースに紐が掛けられ、倉庫の扉には板が打ちつけられた。木箱は、倉庫の一角に収まったまま動かない。縦長の、蓋に釘を打った箱だ。台風の間は、どこへも行けない。専門家チームの人々は、片付けの合間にも港の職員一人ひとりに挨拶をして回り、「ご迷惑をおかけします」と頭を下げていた。抜けたら発つらしい、という話が、港職員のあいだで回っていた。

統括局では、橋本の机の上に電話のメモが増えていった。台風の問い合わせ、停電の問い合わせ、それに「専門家チームの見学の件」が混じっている。橋本は受話器を肩に挟んだまま、見えない相手に何度も頭を下げていた。

議会事務局の窓のない書庫は、この週、灯りが遅くまで点いていた。中村沙織が台車で段ボールを運ぶ姿が、何度も廊下で見られた。除湿機の唸りが、雨の音に混ざった。廊下を通りかかった五十嵐は、湯呑みを持ったまま書庫の戸口を一度だけ覗き、何も言わずに通り過ぎた。

台風の夜は、帰り旗が一番混む。カウンターは満席で、テーブル席には知らない者同士が相席した。藤堂は黙々と定食を出し続け、誰かが焼き魚の骨を丁寧に外し、誰かが停電の順番の噂をしていた。D区のコンテナ街では、発電機の唸りが風の音と張り合い、燃料を分け合う声が暗がりから聞こえた。神谷の決めた防火当番が、雨合羽の襟を立てて発電機の周りを見て回り、延長コードを一本ずつ足で確かめていった。その少し後ろを、警備ロボットのサブロウが、いつもの巡回の道筋をいつもよりゆっくり回っていた。シマケイの宮本と大城も、雨の切れ間にバイクで二度通りかかった。何かあったら、と言いながら、何もないことを確かめていくだけの見回りだった。C区の一角だけが、いつものように明るかった。

台風が島にかかった二日間、学習センターは閉まり、端末の前に座れなくなった子どもたちは、多目的ホールの軒下で雨を眺めていた。誰かが持ち込んだボードゲームの駒が、一つ足りないまま遊ばれていた。北浦では、オジイが台風の夜のアサバンをしなかった。海が聞いていない夜だからだ。岬の突端には、誰も立たなかった。

ナカ商店街では、開いている店はどこも店先の看板と植木鉢を中にしまい、窓ガラスに養生テープを貼った。美容院「アトベ」の窓だけ、×印がやけに几帳面に二重になっていた。修理屋「なんでも直す」のシャッターは珍しく全部閉まっていて、学習センターで何か直しているんだろう、と誰かが言った。B区とC区の境の坂では、ナナメがまた転んでいた。強い風の中で起き上がろうとして、もう一度転んだ。軒下から見ていた住民が、雨合羽のまま拍手をした。

計画停電は二晩続いた。B区の自生棟では、廊下の「持っていっていい棚」に、誰かが懐中電灯の予備を置いていった。翌朝には、なくなっていた。代わりに、使いかけの蝋燭が二本置いてあった。消防署のシャッターは一度だけ開き、ポンプ車のバッテリーを確かめて、また閉まった。何も起きなかった。何も起きない日が、いい日だった。

週末、雨が一時やんだ短い晴れ間に、ポーシーに何人かが集まった。テーブルの上に、書き写した紙が何枚も広げられた。皆、しばらく何も言わなかった。保市屋は店番をしながら、棚のたばこを並べ直していた。並べ直す必要のない棚だった。

最後に口を開いたのは、事務局の帰りに寄った中村沙織だった。「紙は、だいたい出揃ったと思います」。南部は、なぜ誰にも管理されてこなかったのか。北浦の人たちは、なぜ島を出されたのか。机の上の紙は、島でこれまで言われてきたのとは、違うことを言っている。

「議会に出すなら、起案の書式はあります。出さないなら、それも一つの決め方です」。
「残しておくって手もあるな。いつか誰かが、同じことを調べ始めた時のために」と、保市屋が棚から顔を上げずに言った。
誰かが「オジイには、言うのか」と呟いた。誰も、すぐには答えなかった。

雨は、また戻ってきた。南部林の斜面から流れてきた泥水がD区の南の縁に溜まり、今年の「当たり」はそこだった、という話が翌朝には回った。港の係留ロープを見に出た誰かが、毎年一人はずぶ濡れで戻ってくる。今年は誰になるのか、ナンジィの前の列では、もう賭けになっていた。風の向きが、少しずつ北へ回り始めている。

台風が抜ければ、専門家チームは島を発つ。そういう段取りらしい。

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