「また神社の草を刈りに行くんだな」——そんな声が、B区のあちこちで広がっていた。
草刈り機は商店街を素通りしてなお北へ向かっており、今回の目的地については古参の住民のあいだで見解がほぼ一致してきている。前回も前々回も、最終的には渡来神社にたどり着いた。今回も同じだろう——という認識が、誰かが誰かに言い、その人がまた誰かに言う形で、潮の匂いのように静かに広まっていく。
若い住民が「えっ、なんで神社に?」と聞き返しても、古参は「さあねえ、でも毎回そうなんだよ」と言うだけだ。理由については気にしていなかった。理由を知っている人間は、今のところおそらく一人しかいない。そしてその人間は今、ワイシャツの背に汗を染ませながら草刈り機の後ろを追いかけている。田村という三十八歳の男だ。
草刈り機の周りには今、照屋と忍野、宮本の三人がいる。そこへ少し遅れて小此木が「草刈り機もお散歩ってするんですね」と言いながら加わり、四人組になった。特に改まった挨拶はなかったが、それで問題なかった。照屋が田村に質問を続け、忍野が自転車で機体の側面に回り込み、宮本が「俺、どこ行けばいいんですかねー」と後ろで言っていた。仲村が小走りで追いついて荷台に乗り込んだのは、その少し後のことだ。
照屋が田村に「この機体、金属や磁気に反応する仕様なんですか」と詰め寄った時、田村は「……ボタンが、背面に……でも近づくと機体が離れてしまって……」と言いかけて口をつぐんだ。その場にいた全員が耳にした。続きは出てこなかった。草刈り機がちょうど向きを変えたからか、田村の意志によるものかは、判断がつかなかった。「どうやら、電源ボタンが背面にある」という情報が、その場の空気に薄く溶け込んだ。
草刈り機を三方から囲んで止めようという試みがあった。照屋・忍野・宮本が同時に近づいたところ、機体は一瞬ぴたりと止まった。その場にいた全員が「止まった」と思った。しかし次の瞬間、機体が小刻みに揺れ始め、三方向を素早くスキャンするように動き、そして三人の隙間のうち最も開いていた南東——路地の角——へするりと抜け出した。宮本が「あっ」と言い、忍野が「速い」と叫び、照屋はその瞬間も動画に収めた。全員がてんでばらばらな方向へ走り出し、四十秒ほど後に再び集合した。宮本が「なかなか、小賢しいセンサーだな」と苦笑した。「さて、どうするか……」と誰かが言い、誰も即座に答えなかった。亜熱帯の午前の日差しが石畳を照らし、その上を草刈り機がじりじりと北へ進んでいく。刃が空振りする乾いた音が、住宅地の路地に響いていた。
ナカ商店街では跡部の美容院が、引き続き情報の中継点として機能していた。「住宅地の北端を抜けたらしい」「今度こそ神社だな」「境内の草がまたきれいになるな」という声が断続的に通り過ぎ、跡部は午前の客の髪を整えながらその都度「そうらしいですね」と相槌を打っていた。ドアが開くたびに情報が更新され、跡部は答えながら手を動かし続けた。
帰り旗では、藤堂がカウンターの端に古いノートを広げ、何かを書き込んでいた。草刈り機の軌跡を手書きで地図に落としたような走り書きで、「3回とも同じルートを通っている。北北西への一定の磁場的引力?」という文字が記されているのは、店に入ってきた客なら誰でも自然と目にする場所だった。藤堂は聞かれれば話すつもりのようで、ただ特に声を張り上げてはいなかった。帰り旗のカウンターで書かれたメモは、いつでもそうやって誰かに拾われる。
渡来神社の方角からは、まだ草刈り機の音は聞こえない。しかし、そちらへ向かって全力で走っていく小柄な人影が一つ、B区の路地を横切るのを何人かの住民が目にしていた。あの子一人でどこ行くんだろう、と思った住民が少なくとも二人いたが、声はかけなかった。この島では、子どもが一人で走っていてもたいていは何かを調べに行っているだけだということを、長く住む者ほどよく知っている。
草刈り機は今も北へ向かっている。三方から囲んでも止まらなかった。止める手がかりが「背面にある」ということは、もう一歩手前まで来ている。あと何が足りないか——それを一番よく知っているのは、今のところ田村と、草刈り機を追いかける田村を見やる照屋くらいかもしれない。