PBW

Turn 4

シナリオ01_草刈り機が島を縦断した日

配信済

締切: 2026/06/21(Sun)00:00

Current Situation

渡来神社の境内に、草を刈る音が響いている。
草刈り機は鳥居をくぐってから作業モードに切り替わり、今は往復のパターンで境内の草を体系的に刈り進めている。二年分の伸び放題だった草が、機体が通るたびに整えられていく。誰も頼んでいないのに、几帳面に、丁寧に。
境内には今、かつてないほど人が集まっている。神辺トオルと霧島海斗は鳥居の前から動かない。跡部仁はカメラを構え続けている。照屋陽翔、忍野悟、小此木櫂、仲村唯、宮本、そして田村が、B区から歩いてきてそこに加わった。オジイは縁側に腰を下ろして、草刈り機の動きを黙って見ている。
止め方は分かっている。背面の赤いパネルを開けて、電源ボタンを三秒押せばいい。ただし作業中は安全センサーが働いているため、近づこうとすると機体が離れる。誰かが気を引いて、誰かが後ろに回る——以前から構想してきた方法は、今も有効なはずだ。
ただ、誰も動いていない。
止めることが正しいのか、このまま刈り終わるのを待つことが正しいのか、その問いに答えられる人間がここにいない。田村は止めるべき立場だが「どちらが正解か」と問われて視線を逸らした。オジイは「よくやった」と言う人間だ。草刈り機が境内をきれいにすることを、誰よりも歓迎している可能性がある。
もう一つ、浮かんだままになっている名前がある。佐伯。初回キャリブレーションを行った前任担当者で、今は離島している。オジイの口から「ちょうどその頃、神社によく来ていた」と語られた人物だ。なぜ神社の鳥居の前でキャリブレーションを行ったのか——その問いの答えは、今この場にはない。
草刈り機は刈り続けている。刈り終われば、機体は鳥居付近で待機モードに入る。その時、安全センサーは切れる。
今、何をするか。

GM より 共通リプライ

草刈り機が、境内の最後の一角を刈り終える。

往復のパターンで几帳面に刈り進んできた刃が、ふいに動きを緩めた。鳥居の方向へゆっくりと戻っていく。誰もが見ている間に、機体の動きは静かに収まり、鳥居からそう遠くない場所で完全に止まった。ジグザグも、揺れも、何もない。ただ、止まっている。境内には潮風が吹き、刈られたばかりの草の匂いが濃く漂っていた。

忍野は、その直前まで何度も機体に近づこうとしていた。「諦めんぞ」と言いながら横から回り込み、後ろから走り、その都度安全センサーにするりと逃げられてきた。最後の一回も同じだった——のに、機体が完全に停止した瞬間、それまでの抵抗が急に意味をなさなくなった。忍野は拍子抜けした顔で立ち止まった。「……あれ、止まってます?」。誰も即座には答えなかった。照屋がスマートフォンを構えたまま、その様子も録画していた。

田村が小走りで近づいた。「待機モードに入ったんだと思います。これなら……」。背面の赤いパネルを開け、自分の手で電源ボタンを三秒押した。低い駆動音が消えていく。境内が、急に静かになった。三方から囲んでも逃げられ、陽動を試みても無視され、ここまで何度も振り回されてきた末の、あまりに静かな結末だった。

「ありがとうございます」と田村は、その場にいた全員に向かって何度も頭を下げた。誰も損をしなかった結末だった、と誰かが小さくつぶやいた。

オジイが縁側からゆっくり立ち上がり、刈られたばかりの境内を見渡した。「よくやった」とつぶやいた。今日初めて、その言葉が誰の耳にもはっきり届いた。二年分の伸び放題が消えて、境内はすっきりと見通しがよくなっている。

境内のあちこちで、それぞれの形で今日という日が締まっていった。神辺・霧島・跡部のもとに小此木が歩み寄り、それぞれが調べてきたことを言葉にし合っていた。鳥居の鉄釘、ツギハギの補修跡、磁気センサーの誤登録という仮説——これまで別々に積み重ねてきた手がかりが、ここでひとつにまとまっていく。

その少し先で、照屋が田村に「これ、開発元への報告には載るんですかね」と聞いた。田村は「……佐伯さんのことは、まだ正式な調査にするかどうか、私の立場では決められないんですが」と言葉を選びながら答えた。それでも記録には残す、と約束した。完全な解決ではなかったが、それでも前へ進んだ何かがあった。

霧島は「これでいいんですか」とオジイに聞いていた。横では仲村が、オジイに、佐伯について別の角度から質問を重ねていた。オジイが言うには「鳥居を気にしていた」「補修を見て感心していた」——少しずつ、佐伯という人物の輪郭が浮かび上がっていく。それが事件の答えになるのか、ただの思い出話で終わるのかは、まだ誰にも分からなかった。

神辺が田村に「定期的に、これくらいの頻度で誰かが草刈りに来てくれると助かるんだが」と声をかけた。田村は少し驚いたような顔をしてから、「……検討してみます」と答えた。境内に集まった面々がそれぞれの方向を向きながら、今日という長い午前と昼が終わっていくのを感じていた。

田村はそれから、深く一礼してC区のフェンスの方向へ歩いていった。背中が少しずつ小さくなっていく。本土の開発元からの返事は、いつ届くのだろうか。

夕方、帰り旗のカウンターには、宮本がいつも通りの席に座っていた。「結局なんだったんですかね、あれ」と言うと、藤堂が「鳥居の鉄釘に、誤登録、だそうですよ」と答えた。「はぁ、そういうことですね。まぁ、神社の草もきれいになったりましたし、もうこれでいいですよね」と宮本が言うと、藤堂は「えぇ、そうですね」とだけ返し、ノートを開いて一行だけ書き加えた。誰にも見せるつもりのない、その日のための記録だった。島の午後は、いつも通りの速度で夕方へ流れていった。

← アーカイブ一覧に戻る